国際シンポジウム概要
平成19年12月13日、拉致問題対策本部事務局・法務省・外務省共催「国際シンポジウム」が三田共用会議所において行われたところ、概要以下のとおり。
1.まず、冒頭、中山恭子総理大臣補佐官及び飯塚繁雄「家族会」代表より、概要以下のとおり冒頭挨拶が行われた。
(1)中山補佐官冒頭挨拶
- 日本においては、12月10日から16日までの1週間を「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」と定め、拉致問題の早期解決を訴える様々なイベントが開催されている。本日の国際シンポジウムもその一環。
- 本日、北朝鮮問題に精通した日韓米のパネリストにご参加いただく。討議を通じて、拉致問題に対する国際社会の理解が深まり、問題解決に向けた国際連携が強化されることを願う。
- 本日は、韓国、タイ及びルーマニアからも被害者ご家族が参加。一刻も早い拉致問題の解決に向けて、皆様と協力しながら、今後も真剣に努力していきたい。
(2)飯塚繁雄「家族会」代表挨拶
- 「人権週間」は、拉致問題の解決について全国的に考える良い機会。12月10日には、「家族会」「救う会」「拉致議連」主催による国際会議を開催し、諸外国の被害者ご家族や支援団体関係者のご参加の下、「拉致解決国際連合」を立ち上げた。今後も国際連携を強化し、拉致問題の解決を強く訴えていきたい。
- 拉致被害者の救出活動は少しずつ前進してきたが、拉致問題そのものにはなかなか進展が見られない。拉致はテロであり、被害者を絶対に取り戻すのだという我々の強い意志を今後も示していきたい。
2.続いて第1セッション「北朝鮮における人権状況と国際社会の取組」が行われたところ、概要以下のとおり。
(1)高島肇久学習院大学特別客員教授(コーディネーター)からの問題提起
- 今月10日は、50年前に人権宣言が採択されたことを記念する世界人権デーだった。日本においては、昨年成立した「北朝鮮人権法」に基づいて、10日より、北朝鮮の人権侵害問題を国際社会とともに考えることを目的とした「人権週間」が始まった。本日は、北朝鮮問題に詳しい政府関係者、有識者、ジャーナリストのご参加の下、脱北者や強制収用所の問題を含む人権侵害問題について討議したい。
(2)基調発言
(齋賀富美子 人権担当大使)
- 我が国の人権外交の基本的な考え方は、「人権・民主主義の基盤が各国において十分に整備されることは、平和で安定した社会の確立、ひいては、国際社会の平和と安定に直結する」、というもの。北朝鮮による日本人の拉致は、我が国の主権侵害であると同時に、被害者の方々の自由、幸せを奪う重大な人権問題でもある。
- 本年11月21日、国連総会第3委員会において北朝鮮人権状況決議が付託され、昨年を上回る97の賛成票を得て採択された。同決議は、北朝鮮当局に対して人権状況の改善を促し、また、国際社会が北朝鮮の人権状況に関する問題意識を共有し、再確認する意味を持つ。
- 日本政府は、二国間、及びG8サミットやASEAN+3といった多国間の場を通じて拉致問題を始めとする北朝鮮人権状況の改善の必要性を提起している。引き続き、これらの問題を一刻も早く解決するために全力で取り組んでいきたい。
(金聖☆(キム・ソンミン)「自由北韓放送」代表)(☆=王へんに文)
- (人民裁判及び公開銃殺の現場の音声を流した上で)北朝鮮においては、当局が食料配給を行わないことを原因とする餓死や殺人が発生しているにもかかわらず、住民は、極刑の現場を見せられることなどを通じて、恐怖と不安に追い込まれるばかりである。裁判手続は適正でなく、「祖国と人民の名において処罰する」という漠然とした基準が用いられている。
- 北朝鮮当局は、知る権利を奪うことで、2300万人の北朝鮮住民を精神的奴隷にしてしまっている。
- 北朝鮮における人権侵害行為には、「首領の指示を貫徹する」という「正当性」が付与され、「良心の呵責」が残らないような奇異な現象が起こっている。金正日政権は、盲目的に服従することが習慣となってしまった住民を「人質」としながら、「我々に問題はないのに、日本やEU、国連が何を騒いでいるか」と主張している。
- 今こそ、北朝鮮当局の主張が間違っていることを証明する時である。北朝鮮住民に外部の情報を伝え、その結果、人権の普遍的価値が伝えられるなら、北朝鮮住民の意識は大きく変わるだろう。各国の対北朝鮮放送局の国際的連携・協調を提言したい。
(3)パネリストによる討議
(マイケル・グリーン CSIS日本部長)
- 北朝鮮の人権状況をめぐる3つの課題と3つの疑問に触れたい。課題の1つ目は、人権問題の悪化である。北朝鮮当局による強制収容、暗殺、拉致及び脱北者の強制連行といった状況は、深刻さを増している。2つ目は、北朝鮮政府が諸外国の非難をかわすための戦略を有していること、すなわち、敵視政策をとり、あるいは北朝鮮の人権を批判する国とは交渉しないというスタンスをとっており、この戦略が残念ながら機能していることである。3つ目は、国際社会の分断である。関係者の努力にもかかわらず、北朝鮮人権問題に関する国連総会における議論は、一枚岩ではない。また、米国では、人権外交をめぐって左派と右派が正反対の立場をとっている。韓国においては、より大きな分断が見られるのではないか。日本では、国内的コンセンサスは得られているものの、近隣国とのコンセンサスは得られていない。
- 3つの疑問の1つ目は、体制変革を求めることと人権改善を促すことの間にトレードオフ関係があるかどうかである。北朝鮮の人権問題を完全に解決するためには、当局の体制変革が必要であろうが、皮肉なことに、これを目指せば、北朝鮮国民の置かれた状況は悪化するであろう。より現実的なのは、人権状況への監視を強め、食糧支援を行うことである。2つ目は、核問題と人権問題との間にトレードオフがあるかどうかである。自分は、この2者択一を設定すること自体が間違っていると考える。実際、米国は、北朝鮮との交渉において、非核化を求めると同時に人権問題も取り上げてきている。3つ目は、国際社会が連帯を維持・強化できるかであり、この点については、国内的コンセンサスを有する日本が積極的な人権外交を展開できるかどうかが一つの鍵を握っていると思う。
(金玄浩(キム・ヒョンホ) 朝鮮日報統韓問題研究所所長)
- 北朝鮮人権問題の韓国政府、国民の態度について述べたい。韓国の憲法によれば、北朝鮮住民を大韓民国国民と認めている。「国家人権委員会」は、北朝鮮住民の人権状況について、「委員会の調査対象になりえない」との立場を明らかにしており、状況の改善のためには圧力より経済的支援を強化することが重要であるとの立場を有している。韓国政府の立場はさらに消極的であり、10月の南北首脳会談において、ノ・ムヒョン大統領は人権問題を取り上げなかった。今年の国連における北朝鮮人権状況決議にも韓国は棄権した。
- 韓国では、北朝鮮人権問題を普遍的な人権問題と扱うべきか、あるいは南北関係の特殊性の中で捉えるべきかを巡る葛藤があるが、韓国政府は、南北関係改善という大枠の中で北朝鮮の人権問題を解決しようとしている。
- 北朝鮮の人権問題は、「人権」という用語で単純に捉えることはできない。「強制収容所問題」「公開処刑問題」「拉致問題」という具体的な表現を用いて、その犯罪的側面を浮き彫りにしなければならない。
(高世仁(たかせ・ひとし)「ジン・ネット」代表)
- 拉致は、北朝鮮国内においても日々行われている。夜、トラックに連れ去られた人々の行方は誰も知ることができない。脱北工作員であるカン・チョルファン氏によれば、拉致問題は、強制収容所に囚われている人々に対する不法行為が外国にまで広がったものであり、拉致と国内の人権抑圧のルーツは同じである。また、横田早紀江さんは、昨年の米国議会での証言において、拉致問題の解決が北朝鮮国民を救うことにもつながるとの考えを示した。
- 本年9月、ミャンマーにおいて日本人ジャーナリストが当局によって射殺されたが、かつて、米国人ジャーナリストがミャンマー当局に殺害された際、米国はすぐさま対ミャンマー支援を停止した。北朝鮮に対しても、各国は同様の姿勢を持つ必要がある。
- 日本には200名近い脱北者がいるが、自立支援はほとんど実施できていない。ミャンマー難民への対応も不十分。日本が世界の人権擁護の先頭に立って欲しい。
(ケニス・キノネス 国際教養大学教授)
- 北朝鮮における人権問題はよく知られた問題であるが、人権改善のための戦略は何であるかが問題。過去の政策において、外からの圧力は大きな成果を上げてこなかった。
- 北朝鮮の人権侵害は北朝鮮に特殊な問題ではない。米国は、かつて人権問題を抱えていた韓国に対して「静かな外交」及び「文化外交」を活用して韓国国民へのアクセスを確保しようとした。1990年代以降は、食糧支援等の人道支援を通じて北朝鮮国民へのアクセスを確保した。その後、北朝鮮に対して、農業や医療といった分野における教育支援を始めとする文化外交が可能となった。
- 政権を維持したいならば、北朝鮮当局は現在の経済・政治システムを変革させ、また国際社会とより緊密な関係を築かなくてはならない。ロシア及び中国を含む他の共産国はこの現実を受け入れてきた。
(斎賀大使)
- (国際連携強化のための日本政府の取組について高島コーディネーターから質問されたのに対し)国別決議、国別報告者制度については、開発途上国は消極的な傾向にあるが、日本としてはかかる制度の維持を訴えている。また、北朝鮮政府に対して、ムンタボーン特別報告者を入国させ、同報告者による調査を受け入れるよう促している。
(キム・ソンミン代表)
- (放送以外の手段で北朝鮮人権問題及び拉致を解決する方法について高島コーディネーターから質問されたのに対し)金剛山観光事業、開城工業団地を通じて韓国の資金が金正日に流れている状況において、取るべき方法は明快。金正日政権が存在するかぎり、人権、拉致、偽札の諸問題は解決しない。金正日政権が崩壊し、独裁体制が終焉し、北朝鮮人民がみずから作り上げる国家の成立が必要である。
(グリーン部長)
- (高島コーディネーターより、米国は、北朝鮮の体制変革を目指す方針を最近変更させているように見受けられるが、と指摘されたのに対し)米国が北朝鮮の体制転覆を真剣に検討してきたという事実はない。中国が北朝鮮との(緊密な)関係を維持し、韓国から北朝鮮に対して多額の資金が流入する中、米国一国で圧力を加えても効果は少ない。それより、米国としては、中国、韓国がそれぞれの関与政策の中身を変化させるよう働きかけることが懸命であるし、実際にそのようにしている。金正日政権がなくならないかぎり、核や人権を含む諸問題が最終的に解決しないという意見には同意するが、実際の政策となると事情は込み入っている。
(4)質疑応答
(質問:増元「家族会」事務局長)
キム・ヒョンホ所長が北朝鮮人権問題の特殊性について述べたのに対して、キノネス教授はその普遍性を強調した。この点に関するキノネス氏の考えをより詳しく伺いたい。また、最近の米国の対北軟化姿勢を見ると、クリントン政権における米朝枠組み合意の失敗を繰り返そうとしているのではないかとの懸念を抱くが、如何。
(キノネス教授)
人権問題は、かつては韓国においても深刻な形で存在し、米国においても女性や黒人に対する差別問題があった。その意味で、人権問題は、多くの国々で観察される普遍的現象。北朝鮮との関連では、この他に核計画問題もある。これらの問題を解決するためには、多国間協力を強化していくことが肝要。
(グリーン部長)
北朝鮮は、一部の核計画を凍結する用意はあると考えられ、米朝枠組み合意もその意味で有意義だったと考えるが、北朝鮮がすべての核計画を放棄することは残念ながら想定しにくい。
(質問)
米国が北朝鮮に関与することが、北朝鮮のより強硬な姿勢を生んでいるのではないか。
(グリーン部長)
対イラク政策を通じて米国政府が学んだことの一つに次のことがある。すなわち、サダム・フセイン大統領(当時)は、自国の軍を掌握し、イランに対抗する必要性から、「イラクはWMDを保有している」という話をイラク軍高官の間で流布させるよう努めていた。この事例を参考に考えれば、北朝鮮は、米国がアジアへの関与をやめたとしても、自国軍の統制あるいは中国、韓国及び日本への対抗のために核兵器を保有し続けようとするのではないか。
3.休憩後、第2セッション「拉致問題への取組」行われたところ、概要以下のとおり。
(1)高島コーディネーターによる問題提起
- 日本政府は17人を拉致被害者としており、そのうち5人は帰国したが、残る12人の帰国は未だ実現していない。拉致問題の解決は喫緊の課題であり、また、過去の清算の問題も存在する。被害者及びそのご家族はお年を召され、拉致問題は一刻の猶予も許されない状況となっている。
(2)基調発言
(中山補佐官)
- 日本は北朝鮮に対して、帰国できていない12名の被害者の即時帰国を要求し、同時に、拉致の可能性が排除できない方々の調査・捜査を進めている。北朝鮮は、拉致被害者の安否に関する満足な説明を行っていない。
- 拉致は、人権問題であり、テロともいえる犯罪行為。北朝鮮による拉致は、相手が単なる犯罪グループではなく国家であることからも、難しい交渉が必要となっている。日本としては、6者会合といった国際的枠組を活用し、北朝鮮と深い関係を持つ国々の協力を得ながら、国際社会と連携し、問題を解決しようとしている。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験及び核実験を受けて、国連安保理は、北朝鮮に対して制裁を課する決議を採択し、日本としても、独自の制裁措置を発動した。他方、拉致問題が解決すれば、対北朝鮮支援も可能となり、国交正常化への道も開ける。北朝鮮がこのことを理解して、日本との間で誠意ある話し合いを行うことを望む。
(グリーン部長)
- 昨年の核実験後、北朝鮮は、安保理決議1718を含む国際社会の厳しい制裁に直面した。また、米国は中国と協力してBDAにおける北朝鮮資金を凍結し、世界中の金融機関がこれに同調した。本年2月の6者会合において、北朝鮮は非核化プロセスを進めることに同意したが、これはそれまで非常に厳しい措置があったからであろう。
- 上記プロセスには寧辺における核施設の無能力化が含まれるが、これら施設は老朽化しており、北朝鮮はそれほど痛みを感じていないはず。また、本年末が期限となっている核計画の申告についても、北朝鮮側が準備していると伝えられる内容は期待を大きく下回るものと伝えられている。北朝鮮は、核放棄を宣言するだけに止めつつ米国との国交正常化作業を進め、後は米国における政権交代を待つというスタンスなのではないか。
- 米国によるテロ支援国家指定解除が話題となっているが、北朝鮮側より、核計画に関する新たな申告が行われる見通しは低い。また、シリアとの核協力疑惑が浮上しており、福田総理からの働きかけもあった。このような事情を勘案すれば、年末までに指定解除が実施される可能性は低い。他方、テロ支援国家指定は象徴的なものであり、これを解除したとしても、他に多くの制裁措置が残るという点を見過ごしてはならない。
- 効果的な圧力を加える方法としては、日米韓3カ国協力を強化させることが有効であろう。
(3)パネリストによる討議
(重村智計 早稲田大学教授)
- 拉致問題が未だ解決していない理由の一つは、北朝鮮との交渉において主権侵害を主張せず、また、非正規ルートを使用したことに関する小泉首相の責任を明確にしていないという日本側の事情にある。次に、韓国の太陽政策に代表される各国の融和的な姿勢がある。ただし、韓国で政権交代が起これば、これまで8000億円相当の資金流入は激減し、状況も変化するであろう。最後に、ヒル国務次官補が日米同盟の共通の価値観を基盤とした日米同盟の意義を十分に認識せずに北朝鮮との交渉を行っていることが上げられる。
(キム・ヒョンホ所長)
- 朝鮮戦争以降、480人余りの韓国人が北朝鮮によって拉致されたが、韓国政府、マスコミは、ほとんどこうした拉致問題を取り上げていない。韓国は、北朝鮮との間で歴史的問題を抱えており、これが拉致問題を複雑化している。また、これまで北朝鮮からの攻撃・テロをあまりに多くの受けてきたため、その一つである拉致問題に対する感覚が鈍くなっている。
- ノ・ムヒョン政権は、残り少ない任期中に南北関係における成果を上げることを重要視しており、日本人拉致問題が北朝鮮の核問題の解決の障害になるのではないかと感じている。韓国で政権交代が起こったとしても、対北朝鮮政策は大きくは変わらないであろう。10年間にわたる太陽政策の論理は韓国国民の間に深く定着しており、これが急に変わることは想定しにくい。
- 韓国では、日本人が北朝鮮における人権問題一般ではなくて拉致問題のみに過大な焦点を当てているとの見方がある。また、韓国では、拉致問題が日本社会における「右傾化」をさらに強めるのではないかとの見方がある。自分としては、日本において、強制収容所の問題を含む北朝鮮の幅広い人権問題に関心が集まることを期待している。
(高世代表)
- 北朝鮮という国を「独裁国家」と捉えることは間違い。自分は、これまで東南アジア諸国を幅広く取材してきたが、東南アジアにおいて、(北朝鮮のように)人口の15%が餓死しても国民の間で暴動が起こらない国は見られない。北朝鮮は、ヒトラー政権下のドイツ、スターリン政権下の旧ソ連と同じ「全体主義国家」と考えた方がより正確ではないか。こうした国に対しては、交渉を通じて最大限の情報を引き出す一方で、その体制を変更させる取組が必要である。
- 斎賀大使が判事となられる国際刑事裁判所(ICC)は、強制失踪者問題を扱っている。同裁判所においては、犯罪が加盟国において行われた場合、容疑者が非加盟国国民であっても訴追できる。ICCの検察官に拉致問題をすぐに提起すべきである。
(キノネス教授)
- 金正日は、父・金日成と違って、絶対的な支配者ではなく、強い力を持つ軍部をはじめとする各当局間のコンセンサスを得ることが不可欠。その軍部及び治安当局が拉致問題に関わっていることに鑑みれば、拉致問題の全面解決は容易ではない。この点を日本政府はきちんと国民に伝えるべきである
- 6者会合において、日本が米韓中ロのコンセンサスを支持すれば、右4者は拉致問題に関する日本の努力を支持するであろう。
- 北朝鮮は未だ貧困に苦しんでいるものの、経済状況は徐々に回復している。食糧不足は未だ続いているが、飢餓状況からは脱した。また、北朝鮮は165ヶ国との間で外交・商業関係を有している。これらの点を踏まえれば、北朝鮮の体制が崩壊する可能性は低い。日本は、現在の北朝鮮指導層との交渉が今後も続くことを念頭において政策を展開する必要があろう。
(斎賀大使)
- 拉致問題がICCにおいて取り扱われている「人道に対する罪」に含まれることは間違いない。一方、拉致問題の発生時期やその規模、北朝鮮がICCの締約国でないこと、あるいはいずれの人物を拉致の実行犯として提訴するかについては、慎重な検討が必要であろう。
(中山補佐官)
- 日本人は、強制収容所を含む北朝鮮の人権問題について決して無関心ではない。北朝鮮の人権問題全般に関する関心は、日本人拉致被害者の帰国が実現すれば、日本国民の間で一層強まるであろう。
- 拉致問題が北朝鮮による核無能力化プロセスの障害になっているのではないかとのご指摘があったが、北朝鮮の核は日本の大きな脅威であり、北朝鮮の非核化は日本にとって重要な課題。他方、拉致問題も日本にとって重要な問題であり、これは核問題とは別途取り組むべきものである。
(重村教授)
- 金正日は、独断で政策を実行できる状況にはなく、日本との間でも、2002年以降、大きな決断を行っていない。他方、最終的な決断は金正日が行っていることは間違いなく、結局、問題を解決しようと思ったら、金正日に直接働きかけることが不可欠。
(キム・ヒョンホ所長)
- 日本人拉致問題への取組が北朝鮮人権問題全般への取組に拡大していけば、日本人拉致問題に関する韓国及び国際社会の理解を得られやすくなるものと思う。
- 金日成時代には、労働党あるいは政府における決定を覆すのは、もともとの決定を行った党・政府の当事者であった。しかし、金正日政権になってから、党大会が開かれなくなったこともあり、各機関の決定を金正日一人が覆すようになった。このことから、金正日は、金日成より独断的であると言えよう。
(4)質疑応答
(質問)
- 米国が北朝鮮に対して求める無能力化の内容が弱まってきているとの印象を受ける。米国は、北朝鮮の核保有を黙認しつつあるのか。
(グリーン部長)
- 確かに、6者間の本年2月13日の合意は、以前求めていたような恒久的な無能力化ではなく、6~12ヶ月の無能力化を前提としたものであり、また、BDA問題について何ら記載していない。しかし、だからといって、米国政府が北朝鮮の核保有を黙認しようと思っているとは考えにくい。戦術的には、核問題をめぐる進展を性急には求めない方針を有しているように見えるが、戦略的には、以前と同様にあくまで北朝鮮に非核化を目的としているはずである。
(キノネス教授)
- 北朝鮮の完全なる非核化は、北朝鮮政権の変革なくしては難しいであろう。
(質問:飯塚「家族会」代表)
- 拉致問題の解決に向けたシミュレーションはいろいろ有り得ると思うが、「このようなシミュレーションであればこの時期に問題が解決すると想定される」という見方を是非ご提示いただきたい。
(重村教授)
- 拉致問題の解決のためには、北朝鮮政権の崩壊が一番の早道。しかし、近い将来にこれが起こることは想定しにくい。
- 2002年に5人の帰国が実現した背景には、米国からの軍事攻撃の可能性に関する北朝鮮当局内の危機感があった。(現在のブッシュ政権は北朝鮮に対して歩み寄る姿勢を見せているが、)米国の現政権が交替すれば、北朝鮮は対米交渉を一からやり直さなくてはならなくなる。また、(韓国政府は過去10年に亘って太陽政策を続けてきたが、)イ・ミョンバク候補が当選すれば、韓国の対北朝鮮政策に変更が生じるであろう。このような動きに鑑みれば、時期は特定できないが、拉致被害者の帰国が実現する可能性は十分にあると思う。
(高島コーディネーターによる総括)
- 日本政府が行った世論調査によれば、実に88%もの国民が拉致問題に関心を有している。日朝間の拉致問題、及び核、ミサイル、過去の清算といった諸懸案を解決するためには国際社会の理解・支援が不可欠であるが、このためには、今後、パブリック・ディプロマシーを含む日本政府の取組をより一層強化していくことが重要であろう。
(了)